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その後、「キネシオテーピング法」の開発者である加瀬建造先⽣も岡⼭を訪れ、渋⾕さんや学⽣た ちとともに随分と研究をしたことがある。今年で78歳になる加瀬建造先⽣(⼀般社団法⼈キネシオ テーピング協会※2会⻑)は、アメリカナショナルカイロプラクティック⼤学を卒業した数少ない⽇ 本⼈の先駆的な⽶国公認カイロプラクターである。数々の治療を重ねるうちに、⾃然療法と⽪膚に注 ⽬し、「キネシオテーピング法」を確⽴されたと聞いた。現在は、「流体筋膜論」をまとめ、世界中 で講演活動を⾏っている。治療家としてももちろん、⼈間的に多くの⼈々から尊敬されている。

1980年に発表された「キネシオテーピング法」は、簡単に⾔えば、粘着⾯の編み込み構造を指紋 状にし、⽪膚との密着⼒を⾼めたテープにより、⽪膚を持ち上げ、⽪膚にある感覚受容器への刺激と ⽪下組織の流動性を改善し、⾝体のバランスを整えるというものである。

⼀⽅、1986年頃にフランスのLPG Systems社が、リンパや⾎液の流れを改善する美容医療機器と して、エンダモロジー(ENDER MOLOGIE)を開発している。これは⽪下の線維化した脂肪組織を 分解し、⽪膚の凹凸(セルライト)を修復するために、機械的に⽪膚を吸引し、ローラーでマッサー ジをする美容機器として開発され、主にエステティックサロンにおいて利⽤されている。

また、1992年には、東洋医学博⼠の徐堅(じょけん)⽒が、経絡の観点を導⼊し、⼿技により⽪ 膚をつまんで持ち上げる「整膚学」の理論を発表している。

キネシオテーピング療法国際学会にも参加させていただいたことがあるが、⽪膚を刺激する、持ち 上げる、という療法による様々な効果が報告されていた。加瀬建造先⽣の説明で印象的であったの は、「⽪膚は繊細で第2の脳とも⾔われます。⼼地よさも、不快さも感じ取ることができるのです。 また、⽪膚と筋⾁の間にある組織の状態は、視覚的に捉えにくいのですが推測とともに効果を検証し てゆくことが患者様にとって重要なのです」統合医療的な観点である。

その後、私⾃⾝の学内外での異動もあり研究は途絶えたが、あれから渋⾕さんはさらなる研究を続 け、数年前には「流体筋膜論」にこれまでの理論を融合させた「⼼とカラダの痛みを楽にする」ケア マシン(メディセル)を開発している。当初はアスリートを対象としたために、トレーナーたちが練 習現場に携帯可能な機器を意識し開発したという。

最近、プロアスリートを通じて再び、渋⾕さんと再会する機会が訪れた。現場に置いて、アスリー トや患者様の多くの声を聞き、これまでの理論を基に何とか⼈々に貢献したいと機器を開発したらし い。

開発に当たっては、⽪膚への刺激、機械的に安定した吸引、ローラーによるマッサージ効果、1台 の機械にいくつかのケア要素を取り込み、もみ返しや吸引による跡が残らないよう吸引⼒を調整し、 ⾝体各部に即した吸引⼝の開発に努⼒したとのことである。

渋⾕さんがこの装置に込めた期待は、⽪膚を吸引し、ほぐすことにより「痛み」が緩和し「⼼まで が楽になる」ことが⼀番の⽬標であったそうだ。

「機械を導⼊いただいた現場からは、関節可動域が広がった(図1)、打撲や捻挫などの浮腫が早 く引き、回復が早まった、肩こりが緩和された、ここちよく感じる、ぎっくり腰に効果的であった、 など様々な声をいただいています。また、最近では、競⾛⾺を調教している北海道のノーザンファー ムに導⼊して、フランス凱旋⾨賞レースに出場した⾺や国内のG1レースで戦っている⾺にも多数使 ⽤され、上位⼊賞はもちろん優勝した⾺にも使⽤されています(写真1)。⾺が暴れることもなくじ っとしているのは、メディセルがもたらす⽪膚振動が、⾺にとっても⼼地よく、不安軽減効果がある のではないかと思いますが、開発者の責任として、加瀬先⽣のように研究を続け、⼀つずつ少しずつ ⾼いエビデンスを構築しなければならないと考えています」と⾔う。

⼼⾝ともに⼤きな効果が期待され、当初の⽬標に近づいているようだ。

「流体筋膜論」は、最近⽿にする「筋膜リリース」に共通する。しかしながら、これらの⽤語は、 学際的に認められていないので⽤いるべきではないと⾔った研究者もいる。おそらく、科学的に証明 されていない部分もあるのだろう。しかしながら、現実的に効果を認めている⼈々もいる。

渋⾕さんが素晴らしい点は、研究者が陥りがちな、他⼈の論⽂だけを読む評論家になるのではな く、地道に解剖実習や実験を⾏い⾃らの⽬で確認し、学会発表にて批判を受けたり、積極的に情報収 集したりする努⼒を怠らないことである。信念を貫き「理論と実践」を重視する体育⼈に近い。

私たちは、教育者として研究者として、学⽣や⼈々のために、その能⼒を引き出し、伸ばす仕事を ⾏っている。ヒトでも物でも未知の部分があるからこそ可能性がある。

最近、吉備国際⼤学の⽵内研教授がメディセルを⽤いた施術中の脳波を測定している。その結果を お聞きした。「施術を始めてわずか30秒くらいで、リラックス状態を表す、アルファ波やシータ波 が優位になり、特に⾸(頸椎周辺)の施術では、ミッドアルファ波が⽬⽴って優位になりました。ミッ ドアルファ波優位な状態は、リラックスしながらも集中していて、⼈間の⾊々な能⼒が素晴らしく発 揮されます。体の⾊々な部位の施術で、⼤変迅速に、脳波が良い状態になる事がうかがわれました」

本学スポーツ科学センターの若⼿研究者や監督・コーチも、選⼿や⼈々の役に⽴つとして興味を持 ち、倫理委員会の審査を受けながら最新の注意を払いながら、産学連携による選⼿への還元やさらな るエビデンス構築に向け共同研究をはじめようとしている。

ヒトは、どの様な状態にあっても、⼼⾝のバランスを取ることが重要である。動きすぎによる不 調、動かないことによる不調、⼈と接しすぎることによる不調、⼈と接することができないことによ る不調、⾷べ過ぎによる不調、⾷べないことによる不調、寝過ぎによる不調、寝ないことによる不 調、などなど「過ぎたるは猶(なお)及ばざるがごとし」。

三浦 孝仁 みうら・こうじ Ph.D. IPU環太平洋⼤学・体育学部⻑・スポーツ科学センター⻑。 岡⼭⼤名誉教授。公益財団法⼈岡⼭県体育協会スポーツ医・科学委員会委員。⼀般財団法⼈岡⼭市体 育協会常務理事・スポーツ振興委員会・委員⻑。NPO HSA JAPAN代表理事。岡⼭⼤在職中に顧問を 務めた同⼤ウェイトトレーニング部は10度の全国制覇を果たし、ハンドボール部は過去最下位から 1部上位へ引き上げるなど、⻑年に渡りスポーツ教育・指導・研究やキャリア教育などに携わった。 障がい者ダイビングの指導団体「HSA JAPAN」の代表理事も務めている。著書に「筋トレっち ⾛れ るカラダの育て⽅」(東邦出版)など。早稲⽥⼤卒、⽇本体育⼤⼤学院 修了。1957年⽣まれ。

※1(株)MJカンパニー http://www.mj-company.co.jp/facility ※
2 キネシオテーピング協会 https://www.kinesiotaping.jp/about/kenzo_kase.html